2025-04-30
電気防食工事とは?防食対策の仕組みと原理

海洋構造物の長寿命化に欠かせない「電気防食工事」の重要性をご存知でしょうか?電気防食工事の仕組みや種類を知らないという方は多いことでしょう。
そこで、この記事では、なぜ海洋構造物にとって電気防食工事が重要なのか、どのような方法で腐食を防いでいるのかについて解説します。
防食工事の種類やそれぞれの適用シーン、導入時のコストやメンテナンスの留意点まで解説するので、海洋建設における防食対策の全体像を把握することができます。
具体的な施工事例として、東日本海洋建設の取り組みも紹介するので、実践的な知識も得られる記事になっております。ぜひ、参考にしてください。
この記事では以下のような内容をご紹介しています。
電気防食工事とは?
電気防食工事とは、電気化学的な手法を用いて、金属の腐食を防止する工事のことです。
特に海中や地中に設置される金属構造物は、周囲の環境の影響を受けて腐食しやすい状態にあります。腐食が進むと、構造物の強度が低下し、最悪の場合は崩壊などの重大な事故につながる可能性があります。電気防食工事は、このようなリスクを回避するために不可欠な対策となっています。
「防食」とは
防食とは、金属の腐食を防止するためのあらゆる対策を指します。
金属は、酸素や水などの環境要因と反応することで腐食し、劣化していきます。この腐食反応を防止することで金属の寿命を延ばし、構造物の安全性を確保することが防食の目的です。
防食には、電気防食以外にも、被覆(塗装やライニングなど)や材料選択(耐食性のある材料を使用する)などの方法があります。それぞれの環境や構造物に適した防食方法を選択する必要があります。
海洋構造物における腐食のリスクについて
海洋構造物は、海水という非常に腐食しやすい環境に常にさらされています。
海水は塩分濃度が高く、電気をよく通すため、金属の腐食反応が進みやすくなります。さらに、波や潮流による物理的な摩耗、海洋生物の付着なども腐食を加速させる要因となります。
代表的な海洋構造物である港湾施設、橋梁の基礎部分、船舶などは、常に腐食の危険にさらされているため、適切な防食対策が欠かせません。
これらの構造物が腐食によって損傷を受けると、莫大な経済的損失だけでなく、人命に関わる事故につながる可能性もあるため、防食は安全確保の観点からも非常に重要です。
海洋構造物における腐食の種類としては、全面腐食・孔食・隙間腐食・応力腐食割れなどがあります。これらの腐食は、海水の成分や温度、流速、溶存酸素量、海洋生物の活動などの様々な要因によって影響を受けます。そのため、色々な腐食要因を総合的に考慮する必要があるのです。
腐食の種類 | 特徴 | 発生しやすい箇所 |
---|---|---|
全面腐食 | 金属表面全体が均一に腐食する | 海水中で常に海水に触れる部分 |
孔食 | 金属表面に小さな穴が局所的に発生する | 保護皮膜の欠陥部分 |
すきま腐食 | 狭いすきまで腐食が集中して発生する | ボルトの締結部、溶接部 |
応力腐食割れ | 応力と腐食環境の相乗効果で発生する割れ | 溶接部、応力集中部 |
防食工事には種類がある
構造物を腐食から守る防食工事には、様々な種類があります。大きく分けると、電気防食法、被覆防食法、環境調整法の3つに分類されます。
それぞれの手法は単独で使用されることもありますが、複数の方法を組み合わせることで、より効果的な防食対策となる場合もあります。
※電気防食工事については「電気防食工事と潜水士」も併せてご覧ください。
電気防食法
電気防食法は、電気化学的な原理を用いて金属の腐食を防ぐ方法です。
外部から電流を流すことで、金属の腐食反応を抑制します。この方法のメリットは、他の防食法と比較して高い防食効果が期待できる点です。
特に、水中や地中などの被覆防食法が適用しにくい環境において役立ちます。また、電気防食法には、外部電源方式と犠牲陽極方式の2種類があります。
外部電源方式は、外部電源装置から防食電流を供給する方法で、大規模な構造物や複雑な形状の構造物に適しています。一方、犠牲陽極方式は、防食対象となる金属よりも卑(ひ)な金属を接続し、両者間の電位差を利用して防食電流を流す方法です。
電気防食法の詳細は後記するので、そちらも併せて参考にしてください。
被覆防食法
被覆防食法は、金属の表面を塗料やライニング材などで覆い、腐食性環境から金属を隔離することで腐食を防ぐ方法です。
この方法は、比較的安価で施工が容易であるというメリットがあります。塗料には、エポキシ樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料などの様々な種類があり、それぞれ耐候性、耐薬品性、耐熱性などが異なります。
ライニング材には、ゴムライニング、FRPライニングなどが用いられます。
被覆防食法は、大気中や土壌中など、様々な環境で使用できますが、被覆に傷が付いたり剥がれたりすると、そこから腐食が進行する可能性があるため、定期的な点検と補修が必要です。
環境調整法
環境調整法は、腐食を引き起こす環境要因を制御することで腐食を防ぐ方法です。
例えば、大気腐食の場合は、湿度を低く保つことで腐食を抑制できます。また、水中や土壌中では、pH調整剤や腐食抑制剤を添加して腐食を抑制する方法があります。また、環境調整法は、他の防食法と併用されることが多い方法です。
防食方法 | 原理 | メリット | デメリット | 適用例 |
---|---|---|---|---|
電気防食法 | 電気化学的な原理で腐食を抑制する | 高い防食効果 | 防食対象が水中、海中、土中に限られる。 | 海洋構造物の海中部 |
被覆防食法 | 金属表面を被覆して腐食環境から隔離する | 施工方法が多様/外観の選択が出来る | 被覆の劣化による防食機能の低下/防食効果が施工品質で差がでる | 橋梁、建築物/海洋構造物の気中部 |
環境調整法 | 腐食環境を制御する | 他の防食法と併用が可能 | 単独での使用は限定的 | 冷却水システム、ボイラー |
電気防食の基本的な考え方と仕組み
海洋構造物は、常に海水という過酷な環境にさらされています。海水は電解質溶液であり、金属材料にとって腐食しやすい環境です。
この腐食を防ぎ、構造物の寿命を延ばすために重要な役割を果たすのが「電気防食」です。電気防食の基本的な考え方は、電気化学的な反応を利用して、金属の腐食を防ぐことにあります。
電気防食法の種類と特徴
「外部電源方式」と「犠牲陽極方式」のそれぞれに特徴があり、適用される構造物や環境によって使い分けられます。
外部電源方式と犠牲陽極方式がある
外部電源方式と犠牲陽極方式のそれぞれの方式について、詳しく見ていきましょう。
外部電源方式
外部電源方式は、直流電源装置、ケーブル、陽極材料などで構成されます。
電源装置から供給される直流電流は、陽極材料を介して海水や土壌などの電解質中に放出され、保護対象物に流れ込みます。この電流によって保護対象物はカソード分極され、腐食が抑制されます。
外部電源方式は、防食電流の調整が必要な場所や高い防食電流が必要な場合に適しています。また、防食電流を細かく制御できるため、特殊な環境下に置かれた構造物にも適用可能です。
外部電源方式の代表的な陽極材料としては、黒鉛、鉛合金、高ケイ素鉄、酸化鉄、白金めっきチタンなどがあります。
犠牲陽極方式
犠牲陽極方式は、保護したい構造物に、それよりも卑(ひ)な金属を接続し、両者間の電位差を利用して防食電流を流し構造物を保護する方法です。
犠牲陽極としては、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム合金などが用いられます。これらの金属は、保護したい構造物よりもイオン化傾向が高いため、電解質中で優先的に溶解し、構造物に電子を供給します。この電子の供給により、構造物はカソード分極され、腐食が抑制されます。
犠牲陽極方式は、比較的小規模な構造物や電源の確保が難しい場所に適しています。また、設置場所によってはメンテナンスが比較的容易であるというメリットもあります。
それぞれの適用シーンと違い
外部電源方式と犠牲陽極方式は、それぞれにメリット・デメリットがあるため、適用シーンによって使い分けられます。以下に、それぞれの方式の適用シーンと違いをまとめました。
項目 | 外部電源方式 | 犠牲陽極方式 |
---|---|---|
適用シーン | 高防食電流が必要な場合、犠牲陽極方式が採用できない場合 | 電源確保が難しい場所、メンテナンスを簡素化したい場合 |
メリット | 高い防食電流を供給可能、防食電流の制御が容易 | 電源不要、メンテナンスが容易 |
デメリット | 初期費用が高い、電源が必要、定期的なメンテナンスが必要、電源の供給が止まると防食状態が停止する | 防食電流が限定的、陽極の交換が必要 |
防食対象の構造物の規模、環境、予算などを考慮し、最適な電気防食法を選択します。
東日本海洋建設での施工事例
東日本海洋建設は、長年にわたり海洋土木工事で培ってきた技術と経験を活かし、様々な海洋構造物の電気防食工事を手掛けて来ました。ここでは、その中から代表的な施工事例をいくつかご紹介いたします。
千葉県姉ヶ崎火力発電所:取水路カーテンウォール

千葉県姉ヶ崎火力発電所:放水路カーテンウォール

これらの事例以外にも、東日本海洋建設は多くの海洋構造物の電気防食工事を手掛けており、その実績と技術力は高く評価されています。
電気防食法のメリットと課題
電気防食法は、海洋構造物にとって非常に有効な防食対策ですが、導入にあたってはメリットと課題の両面を理解することが重要になります。
適切な設計と施工、定期的なメンテナンスを行うことで、その効果を最大限に発揮して構造物の長寿命化を実現することができます。
腐食防止の効果と構造物の長寿命化
電気防食法の最大のメリットは、海洋構造物の腐食を効果的に抑制し、その寿命を大幅に延ばせる点にあります。
腐食による劣化を防ぐことで、構造物の強度や安定性を維持し、安全性を確保できます。また、補修や交換の頻度を減らすことができるため、ライフサイクルコストの削減にも繋がります。
導入時のコストとメンテナンス面の留意点
電気防食法を導入する際には、初期費用やランニングコスト、メンテナンスの必要性などを考慮する必要があります。しかし、適切なシステム設計と施工を行うことで、長期的なコストパフォーマンスを向上させることができます。
まとめ|電気防食法は海洋構造物の生命線
ここまで、電気防食工事の仕組みや種類、メリット・デメリットについて解説しました。電気防食法は種類があり、それぞれの特徴を理解した上で、適切な方法を選択することが大切です。
海洋構造物は、常に海水という過酷な環境にさらされています。鉄筋コンクリート構造物であっても、海水による鉄筋の腐食は避けられません。腐食が進行すると、構造物の強度低下につながり、最悪の場合、崩壊などの重大な事故を引き起こす可能性もあります。このようなリスクを低減するために、電気防食法は非常に重要な役割を担っています。
電気防食法を導入することで海洋構造物の寿命を延ばし、維持管理コストを削減することが可能になります。また、安全性向上にも大きく貢献するため、社会インフラの安定稼働に欠かせない技術と言えるでしょう。
導入時のコストやメンテナンスの手間を考慮しても、長期的な視点で見れば、電気防食法は海洋構造物にとって非常に有効な投資と言えます。今後の海洋開発においても、電気防食法は重要な役割を担っていくと考えられます。
私たち東⽇本海洋建設は、これからの⽇本の国⼟を⽀えてくれる、チャレンジ精神溢れる⼈材を求めています。若⼿が闊達に意⾒を述べ、ベテランとの相乗効果を発揮して、技術⼒を⾼め、信頼を得られる仕事を続けていく、それが当社の理想であり、その姿が今社⾵として根付いてきています。
⾃分の気持ちを表現すると同時に⼈の話も聞ける⼈、双⽅の⽴場に⽴って、互いの意⾒を調整することにやりがいを感じられる⼈、そして、相⼿のためにやったことが⾃らのためになると信じて前に進んでいける⼈──そんな⼈たちからのご応募をお待ちしています。
⼀緒に、⽇本の未来を⽀えていきましょう。