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People 社員コラム 海洋建設の工法・技術

海洋建設に欠かせない“昇降ステップ設置工事”とは

海辺や水上での作業において、安全な昇降手段の確保は極めて重要です。

桟橋や護岸、船着場などで、人が安全に昇り降りできる環境は、日々の業務効率や緊急時の対応に直結します。しかし、この「昇降ステップ設置工事」が具体的にどのようなもので、なぜ重要なのかご存じですか?

この記事では、海洋環境における昇降ステップ設置工事について、常設型と仮設型との違いや活用場面、施工手順、安全対策などを紹介します。

昇降ステップ設置工事とは?

海や水辺の環境において、人々が安全かつ効率的に移動するための手段として欠かせないのが、昇降ステップ設置工事です。

単に階段やはしごを取り付けるだけでなく、桟橋、護岸、防波堤、船着場などの海洋構造物や水辺の施設において、人や資材が安全に昇り降りするための階段やはしご状の設備を設置する専門工事のことです。

日常的な通行はもちろん、船舶への乗降、施設の点検や保守作業、さらには緊急時の避難経路としても重要な役割を担います。

海洋環境は、潮汐による水位変動や波浪、塩害、紫外線など、陸上とは異なる過酷な条件に常にさらされています。そのため、昇降ステップの設置にあたっては、これらの環境要因を考慮した材料の選定が非常に重要です。

具体的には、耐食性に優れたステンレス鋼やFRP(繊維強化プラスチック)、または溶融亜鉛めっき処理が施された鋼材などが用いられ、長期にわたる安全性と耐久性を確保するための工夫が凝らされます

また、設置場所の地盤や既存構造物の強度を詳細に調査し、適切なアンカー工法を用いて堅固に固定することも、この工事の重要な工程となります。

主な設置場所(桟橋・護岸・船着場など)

昇降ステップは、その用途と目的に応じて様々な場所に設置されます。主な設置場所と役割について、以下にまとめました。

設置場所 主な役割と目的
桟橋(さんばし) 船舶への安全な乗降、資材の積み下ろし、作業員のアクセス確保。特に潮汐の干満差が大きい場所では、水位変動に対応できる構造が求められます
護岸(ごがん) 海岸線の保全や護岸自体の点検・補修作業時のアクセス、あるいは緊急時の上陸・避難経路としての利用。漁業関係者レジャー利用者のための昇降も含まれます
船着場(ふなつきば) 小型船や漁船、作業船などが接岸する際の乗降を安全に行うための設備。利用頻度が高いため、耐久性と安全性が特に重視されます
防波堤(ぼうはてい) 防波堤の点検・保守作業時のアクセス経路。一部では釣りなどのレジャー活動を行う人々が安全に昇降できるよう設置されることもあります

このような場所において、昇降ステップは人々の安全な移動と、海洋構造物の効率的な維持管理を支える重要なインフラとして機能しています。

常設型と仮設型の違い

昇降ステップには、その使用目的や期間に応じて常設型仮設型の二つの主要なタイプがあります。それぞれの特徴と用途を下記にまとめました。

タイプ 特徴 主な用途 材料・構造
常設型(恒久型) 長期的な使用を前提とした強固な構造
高い耐久性と耐候性
設置後のメンテナンス頻度が低い
日常的な船舶の乗降
定期的な施設の点検・保守
一般利用者のアクセス
緊急時の避難経路
ステンレス鋼、溶融亜鉛めっき鋼材、FRPなど
コンクリート基礎への強固なアンカー固定
滑り止め加工、防食処理が必須
仮設型(一時型) 短期間の使用を目的とした簡易な構造
設置・撤去が容易
移動や再利用が可能
一時的な工事現場での作業員の昇降
災害時などの緊急一時的なアクセス確保
特定の期間のみ必要なイベントなど
軽量アルミニウム、簡易鋼材、ロープはしごなど
クランプやワイヤーによる一時的な固定
使用後の撤去が前提

このように、常設型は長期的な安全性と機能性を追求し、仮設型は柔軟性と迅速な対応を重視するという違いがあります。用途によって必要な昇降ステップを設置しています。

どんな場面で使われるの?

海洋建設における昇降ステップは、海という特殊な環境下での作業を安全かつ効率的に遂行するために欠かせない設備です。その用途は多岐にわたり、以下のように、人々の生活や産業活動を支える重要な役割を担っています。

潜水作業・保守点検時の昇降サポート

海洋構造物の維持管理や水中での作業において、昇降ステップは潜水士や作業員の安全な昇降を強力にサポートします。

例えば、桟橋や護岸、防波堤といった海洋インフラの定期的な点検や補修作業では、作業員が安全に水面や構造物の下部へアクセスする必要があります。波や潮の流れがある状況下では、不安定な足場からの転落リスクが高まるため、強固で安定した昇降ステップが求められます。

  • 潜水作業の安全確保: 潜水士が重い潜水装備を装着したまま、船上や作業台から水中へスムーズに出入りするために使用されます。その結果、滑落や転倒のリスクを軽減し、潜水作業の安全性を高めます
  • 構造物点検・補修の効率化: 橋脚や護岸の水中部分、または潮位によって露出する部分の亀裂調査や清掃、補修作業を行う際に、作業員が安全な位置まで降り立つための確実なアクセス手段となります。
  • 海洋調査・研究活動の支援: 海洋調査船から観測機器の設置や回収を行う際にも、研究者や技術者が安全に作業を行えるよう、安定した昇降ルートを提供します。

安全な作業動線の確保

昇降ステップは、日常的な港湾業務や緊急時対応においても、人や資材の安全な移動を確保する上で極めて重要な役割を果たします。

漁港の船着場や商業港の係留施設では、日々多くの船舶が接岸し、人や物資の積み下ろしが行われます。

昇降ステップは、船と陸の間を安全に行き来するための基本的な作業動線として機能し、事故を未然に防ぎます。また、災害発生時や緊急の救助活動においても、迅速な対応を可能にするための重要な避難・救助経路となります。

昇降ステップは海の安全を守り、海洋産業の円滑な運営を支えるための縁の下の力持ちとも言える存在です。

施工手順と安全対策

海洋環境における昇降ステップ設置工事は、陸上での作業とは異なる技術と厳格な安全管理が求められます。

そこで、その具体的な施工手順と作業の安全性を確保するための重要な対策について解説いたします。

下地調査・アンカー設置・ステップ取り付けの流れ

昇降ステップの設置は、その後の安全性と耐久性を左右する重要な工程ですが、中でも海洋環境では、水中での精密な作業が必須となります。

手順1. 下地調査

まず、設置を予定している場所の詳細な下地調査を行います。
これには、潜水士による目視確認に加え、水中カメラなどを用いて線密な調査が行われます。

具体的には、以下の項目を確認します。

  • 水深と潮流の確認: 作業の可否や安全な潜水計画の策定に影響するため。
  • 既存構造物の状態: 桟橋、護岸、船着場などの材質、強度、経年劣化や損傷の有無を把握します。特にアンカーを固定する箇所の健全性が重要になります。

上記のような調査結果に基づいて最適な設置位置や工法を決定し、詳細な施工計画を立てていきます。

手順2. アンカー設置

昇降ステップを強固に固定するためには、適切なアンカーの選定と確実な設置が必要となります。そこで、海洋環境の特性を考慮し、以下のようなアンカーが用いられます。

アンカーの種類 特徴と用途
ケミカルアンカー コンクリート構造物への強力な固定に適しており、水中でも施工可能なタイプがあります。
打込みアンカー 岩盤や堅固な地盤への固定に用いられ、高い引抜き強度を確保します。
溶接固定 鋼製の構造物に対して直接ステップを溶接することで、一体化した強固な固定が可能です。

潜水士が水中において、正確な位置に穿孔(穴あけ)作業を行い、選定されたアンカーボルトを挿入・固定します。この工程は、水中での視界不良や潮流の影響を考慮し、熟練した技術と経験が求められます。

手順3. ステップ取り付け

アンカーが確実に設置された後、いよいよ昇降ステップ本体の取り付け作業に入ります。大型のステップや重量のあるものは、クレーンなどを用いて慎重に吊り下ろし、潜水士が水中にてアンカーに接続します。

  • ボルト締め付け: アンカーボルトとステップを正確に合わせ、専用の水中工具を用いて確実に締め付けます。
  • 溶接作業: 鋼製ステップの場合は、水中溶接技術を用いてさらに強固に固定します。
  • 最終確認: ステップが水平に設置されているか、ぐらつきがないか、各部のボルトが規定トルクで締め付けられているかなど、入念な最終確認を行います。

この工程は、海洋構造物の安全なアクセスを確保するための基盤となる作業であり、一つ一つの作業を丁寧に進めることが重要になります。

滑り止め加工や防食処理などの工夫

海洋環境に設置される昇降ステップは、常に海水や潮風に晒され、滑りやすい状況になりがちです。そのため、長期的な安全性と耐久性を確保するための特別な工夫が施されます。

1. 滑り止め加工

ステップ表面の滑り止めは、作業員の転落事故を防ぐために極めて重要です。主な加工方法としては以下のようなものがあります。

  • 溝加工・突起加工: ステップの踏面に深い溝や突起を設けることで、濡れていても足元が滑りにくくなります。
  • 滑り止め塗料・シート: 特殊な粒子を含んだ滑り止め塗料を塗布したり、ゴム製の滑り止めシートを貼り付けたりする方法も効果的です。

滑り止め加工により、雨天時や波をかぶった際でも、安全に昇降できる環境を提供することができます。

2. 防食処理

海水は金属を腐食させる力が非常に強いため、昇降ステップの防食対策は必須です。適切な防食処理を施すことで構造物の寿命を延ばし、安全性を維持します。

防食処理の種類 要点と効果
素材選定 ステンレス鋼(SUS316Lなど耐食性の高いグレード)やFRP(繊維強化プラスチック)など、海水に強い素材を選定します。
溶融亜鉛めっき 鋼材の表面に亜鉛の層を形成し、錆の発生を防ぎます。
エポキシ樹脂塗装 耐水性・耐薬品性に優れた塗料で表面をコーティングし、腐食因子から保護します。
電気防食(犠牲陽極法) ステップ本体よりも腐食しやすい金属(亜鉛など)を設置し、ステップの代わりに腐食させることで保護します。

これらの複合的な防食対策によって、過酷な海洋環境下でも長期にわたる性能維持が可能となります。

作業時の安全管理・チーム連携の重要性

海洋での昇降ステップ設置工事は、天候や海象、水中という特殊な環境下で行われるため、極めて高いレベルの安全管理が求められます。そのため、作業員の安全を最優先に、以下の点が重要視されます。

1. 周到な作業計画とリスクアセスメント

作業開始前には、詳細な作業計画を策定し、潜在的なリスクを徹底的に洗い出すリスクアセスメントを実施します。

  • 天候・海象の確認: 波の高さ、潮流の速さ、視界の状況などを常に監視し、作業可否を厳しく判断します。
  • 緊急時対応計画: 万が一の事故やトラブルに備え、救急搬送ルート、資材流出防止策、通信途絶時の対応などを具体的に定めます。
  • 使用機材の点検: クレーン、潜水器具、水中工具など、全ての機材が正常に機能するか、事前に徹底的に点検します。

2. 潜水作業の安全確保

潜水作業は、特に高い危険を伴うため、専門的な知識と経験に基づいた安全対策が必須となります。

  • 潜水士の健康管理: 作業前の健康チェック、十分な休息、潜水時間や深度の厳守など、潜水士自身の体調管理を徹底します。
  • 水中コミュニケーション: 水中電話や決められたハンドサインなどを用いて、潜水士と地上との間で常に連絡を取り合います。
  • 水中照明・視界確保: 水中での視界が悪い場合でも安全に作業できるよう、強力な水中照明を使用します。

3. チーム連携と安全教育

昇降ステップ設置工事は、潜水士、船上作業員、陸上監督員など、多くの専門家が連携して進めるプロジェクトです。このように、円滑なチーム連携が安全かつ効率的な作業の鍵となります。

  • 情報共有の徹底: 各工程の進捗状況、危険箇所の情報、天候の変化などをリアルタイムで共有します。
  • 役割分担の明確化: 各員の役割と責任範囲を明確にし、指示系統を一本化することで、混乱を防ぎます。
  • 定期的な安全教育・訓練: 事故を未然に防ぐため、定期的に安全教育や緊急時対応訓練を実施し、全ての作業員の安全意識を高めます。

これらの徹底した安全管理とチーム連携によって、海洋での昇降ステップ設置工事は、高品質かつ安全に実施されるのです。

東日本海洋建設の取り組み

海洋インフラの整備において、昇降ステップの設置は利用者の安全確保と作業効率向上に直結する重要な工事です。

東日本海洋建設で行った昇降ステップ設置工事をご紹介いたします。

合同資源:千葉県における昇降ステップ設置事例

「合同資源:千葉県」プロジェクトにて、東日本海洋建設は地域の重要な港湾施設における昇降ステップの設置工事を担当。その安全性と機能性の向上に貢献いたしました。

昇降ステップ設置工事の様子

まとめ

この記事では、昇降ステップ設置工事について解説してきましたが、作業員の安全を守り、効率的な移動を支える非常に重要な工事であることをご理解いただけたのではないでしょうか。

海上や水際といった不安定な作業環境でも、安全に上下移動できるステップを設置することで、日々の業務における危険を大きく減らすことができます。

東日本海洋建設では、現場ごとの条件に応じた最適な設計・施工を行い、確実で信頼性の高い足場・昇降設備の提供を心がけております

こうした"見えにくいけれど必要不可欠"な工事を支える技術に興味がある方は、ぜひ一緒に"現場の安全""未来のインフラ"を築いていきましょう。

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